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【イベントレポート】7月7日『子ども・若者ケアラーの社会学』出版記念イベント

  • 21 時間前
  • 読了時間: 9分

 2026年7月7日に「『子ども・若者ケアラーの社会学』出版記念イベント」を対面で開催しました。当日は飛び入り参加も含めて、21名の方にご参加いただきました。なお、後日に事前申込者(39名)限定で録画を配信しました。





 今回のイベントは、YCARP研究チームが中心となって執筆した書籍『子ども・若者ケアラーの社会学 ケアリング・ソサエティの創造』が2026年4月にクリエイツかもがわより出版されたことを記念して開催されました。当日は、執筆者5名、京都府および京都市の職員がご登壇されました。


【登壇者】

斎藤 真緒(立命館大学産業社会学部 教授/YCARP)

河西 優(立命館大学衣笠総合研究機構 研究員/当事者/YCARP)

武石 卓也(立命館守山中学校・高等学校 ユースワーカー/通信制高校教員/YCARP)

松田 亮三(立命館大学産業社会学部 教授)

竹田 明子(公益財団法人京都市ユースサービス協会 ケア事業担当統括)

小野 等様(京都市 福祉のまちづくり推進室 重層的支援体制・ケアラー支援推進課長 )

嶋﨑 健一郎様(京都府家庭・青少年支援課 参事 兼 京都府ヤングケアラー総合支援センター長)

※登壇順


【当日のお話の概要】

1.書籍の紹介

 斎藤さんより、『子ども・若者ケアラーの社会学』の出版に際しての背景や書籍全体の紹介をして下さりました。

 本書執筆の根底には、当事者の声をしっかり聞くこと、当事者のケアを知ることが挙げられます。本書では、ケアは18歳で終わらず、若者に対して地続きで支援をする必要があることから「子ども・若者ケアラー」という言葉が使われています。子どもたちにとっては、家族に埋め込まれたケアは選べず、ケアをする/しないを選択するには勇気が必要であることが示されています。

 政策面としては、ヤングケアラー支援が法制化されました。18歳以上の若者を含めて支援体制が構築され、前進しました。他方で、「何をすることが支援になるのか」を考える必要があります。当事者が担っているケアの代替に傾斜していること、将来ケアをする可能性があって先行きが不透明な場合など、より幅広くケアの担い手を支える仕組みを考える必要があります。本書では、目の前の分かりやすいサービスの提供にとどまらず、ケアが問いかける社会課題、応え方について執筆をしました。

 ケアリング・ソサエティとは、ケアが大切にされる社会を指します。その中では、「対話と気づき」が大切です。自己犠牲ではなく、自分の人生を生きられることが必要だと考えられます。大学内でも、潜在的ケアラーやケアと隣り合わせで生きている教職員等はたくさんいるでしょう。大学=教育機関でできることと外の社会資源を上手に使うことがポイントだと思います。教育機関と行政の連携によって、ケアが大切にされる社会をつくっていきたいと考えています。




2.各章の紹介

河西さん

第2章「移行期にある若者ケアラーの支援課題の探求」

 大人になっていく過程の中で、家族のケアやケアとの距離化について、若者ケアラーの当事者にインタビューをして書きました。自身が当事者であるがゆえに、研究者として距離をとって書くことが難しかったです。

 難しかった点の一つ目は、本人の「選択」の書き方です。今回のインタビュー調査対象者は、福祉系の仕事に就く方が多く、ケアや家族のことを考えて選択する傾向にありました。客観的には、日常的にケアに従事することで構造的に制約を受けた「選択」をしていると論じられる一方で、本人の意味づけも踏まえて描く必要がありました。二つ目は、ケアをどのように描くかです。例えば、ケアを美化しすぎてないか自覚的になりつつ、一方的に負担として論じることにならないように気をつける必要がありました。ご本人のご意向で、脚注部分に思いを書き記しもしました。

 ケアや家族と距離をとることは、ケアラーに限らずに、若者一般に敷衍して考えることができます。例えば、過干渉の家族、宗教2世などにも該当すると思います。若者一般のケアラーについても、今後研究していきたいと考えています。


武石さん

第3章「社会モデル型ケアラー支援の構想」

 YCARPは、河西さんが当事者の視点、武石さんが支援者の視点で議論して、斎藤先生とも交えて活動をしてきた側面があります。YCARPやCAREFILに参加する中で、支援者のみならず、当事者の視点が入ることで、支援者の考えが相対化され、自己満足のような形になることを避けることができると思っています。

 もともと武石さんは、発達支援(個別療育)の仕事をしていました。療育のあり方に関してモヤモヤがつのるなかで、斎藤先生にお声かけいただきYCARPに参加することになりました。活動の中で、ヤングケアラーを独立した問題を考えるのではなく、福祉や教育にも通底する課題として捉えられることに気づきました。現在は、仕事で中学・高校の生徒と関わり、子ども・若者の色々な悩みを考えることが多いです。

 本書を書いてみて、周囲から様々な反応をいただきました。ある程度ケアや福祉について知っている方にとってはある程度理解してもらえましたが、普段は関わりや考えることのない方にとっては内容が難しく感じられるとの意見が多かったですので、分かりやすく伝えることを今後の課題と考えています。


松田さん

第4章「子ども・若者ケアラーへの支援策」

 社会保障や社会政策の研究を行っています。研究としては、イギリスをはじめとする欧州やオセアニアで進められています。一方で、東アジアは独特の特徴があり、欧州に比べてケアラーの支援がまだ確立されていません。ヤングケアラーの支援を考えながら、ケアラー支援全体を打ち立てる必要があります。若者が現在の経済状況の中でキャリアを築いていくという大きな流れと、個人が抱く困難等の両方をサポートして、日本に合わせた戦略を考えていくとよいと思います。


竹田さん

コラム「ユースショートステイの取り組みから見えてきたこと」

 ユースショートステイ「おりおりのいえ」での運営や実践について紹介します。運営は、ユースサービス協会が行っており、若者(主に中学生~30歳)の自己成長を支える、ユースサービスの理念のもと、居場所づくりや自主活動支援、相談事業に取り組んでいます。「ときどき帰れる、まちの家。」をコンセプトにして、レスパイト拠点としてユースショートステイ事業を展開しています。体験・交流プログラムやおしゃべりできる時間も設けています。

 実際に当事者と接する中で、家族と物理的に距離をとることで、自分を大事にする時間にもつながると感じています。本人に支援制度が適用されるまでの時間的長さやケアから離れることによって罪悪感が生まれること等を吐露する場面に直面することもあり、難しさも感じています。



3.京都市のケアラー支援の取り組み紹介

小野さん

 京都市の取組について紹介して下さりました。京都市では、令和6年に「京都市ケアラーに対する支援の推進に関する条例」が制定されました。条例の前文において、ケアリング・ソサエティと通底する文言があります。条例は自治体にとっての法とも考えられ、行政だけでなく、市民、事業者、学校等の役割等も記載されています。京都市では、ケアラーについて、様々な理由で身近な方を無償でケアする方としており、特定の属性に限っていません。

 条例の目指す社会の実現に向けて、2025年度より、プロジェクトチームや福祉のまちづくり推進室を設置しました。啓発活動として、ポスター、ステッカー、チラシ、動画作成を行っています。行政のみならず、市民の皆様とも一緒になって、活動を行っていきたいと考えています。さらに、2026年7月中には、ケアラー向けの相談窓口を整備する予定です。

 条例に基づいて様々な活動を行ってきましたが、大学の皆様とも一緒に取り組んでいきたいと考えています。


4.京都府ヤングケアラー総合支援センターの紹介

嶋﨑さん

 京都府ヤングケアラー総合支援センターについて紹介して下さりました。京都府では、5年に1度、ひとり親家庭の実態調査を実施しており、令和3年度の調査の結果、ひとり親家庭の子どもの約1割が日常的に家族の世話を担っていることが明らかとなりました。こうした状況を踏まえ、ヤングケアラーへの支援を推進するため、センターを設立しました。センターでは、相談や関係機関に向けた研修事業を実施しています。また、センターの認知度向上を図るために、広報・啓発活動にも取り組んでいます。

 法改正により、ヤングケアラー・若者ケアラーの年齢上限が撤廃されたことを受け、今年度、大学生を含めたヤングケアラーの実態調査を実施する予定です。




5.登壇者クロストーク「大学でのケアラー支援を巡る課題」

(斎藤さん)

 「相談をしてください」と言われていますが、相談には難しさがあると思います。大学でできること、中学・高校と接する中で考えること、他国との比較など、聞いてみたいです。

(河西さん)

 当事者の視点から。学生の時に、澁谷智子さんの『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』を読んで、初めてヤングケアラーという言葉を知りました。当時は言葉を聞いても、自分がヤングケアラーに該当するとは感じず、自分と似ているという感覚だけあったのです。相談に至る前には、自己を相対化して、整理することが必要です。大学は情報提供の場として大切なところで、情報に触れられる場があるとよいと思います。

(武石さん)

 大人は「相談しなさい」と言いいますが、相談しない背景にある理由をしっかり理解する必要があると思います。立命館守山中学・高校では、理由なくつかえる部屋「オルバ」があります。生徒との関わりの中で感じているのは、まずは相談しやすい場づくりが必要だと思います。

(松田さん)

 自分が当事者だと認めて、制度を利用することには、ハードルがあると思います。場をつくることに加えて、当事者が当事者性を自覚できるようなメッセージを伝えていくことが必要だと思っています。

(竹田さん)

 現場では、相談に対して全くハードルのない子ども・若者がいるとも感じます。一方でハードルを感じる若者もいます。相談をした先のイメージも合わせて伝える必要があると思います。また、支援—被支援の関係に陥らない対話のような形で、当事者が将来や社会について考えられるような場が大学でつくられることはいいなと思います。その先に手段・資源として相談があるとよいと思いました。



【参加者感想文(一部抜粋)】


  • 本書の内容が気になるような展開だった。イベントの内容をふまえると、どれだけ居場所的なものを公的な制度に位置づけられるのかが、鍵になるのだろう。「オルバ」がまさにそうした事例としてあげられていたが、専門性/素人性などの緊張関係をはらんでいると知り、今後の展開も興味深い。


  • 「相談すれば良いじゃない」と単に考えられやすいが、そもそも相談できる環境や体制が整っているのかという批判的な問いかけが重要になってくると思う。


  • “当事者の視点が入らないと、支援者の自己満になる”“雑談の中で相談を回収する"といったことが印象に残りました。現場と行政両方の登壇者がいらっしゃったのが新鮮で、貴重でした。ありがとうございました。


  • 大学には保健室がない、図書館にケア機能をという話はとても興味深かったです。 また、ケアから離れて初めて気付くということについて、少年鑑別所での調査でケア経験率が高く出たことにも関連しているかもしれないと感じました。






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